3月30日開催の「表現者クライテリオン沖縄シンポジウム~戦後80年、沖縄から考える対米独立への道~」
今、戦後80年という歴史の節目を迎える本年、もう一度沖縄で集まり、議論しなければならない―そうした強い使命感を抱き、7年ぶりに沖縄シンポジウムを開催いたします。
沖縄こそ、日本の「戦後」が今なお続く場所であり、沖縄を語らずして戦後は語れない。ここにこそ日本の真の独立を考える鍵がある。

異常事態に陥ってしまった県議会─予算案について審議ができない
2025年2月12日、沖縄県議会は、沖縄県が米国に設置した「ワシントン事務所」の問題の影響で、「予算議会」とも称される2月定例会で「予算案について審議ができない」という異常事態に陥ってしまいました(注1)。
ここまでの事態に至る経緯は複雑なのですが、簡潔にまとめると以下のようになります。
県議会2月定例会が開会する時点で、県議会の「ワシントン駐在」を巡る問題に関する百条委員会と、県が独自に設置した調査検証委員会における審議はようやく始まったばかり、県監査委員による監査も未だ終わっていない、つまりは問題の検証が全く済んでいない状況でした(注2)。
現在の沖縄県議会は反知事派が過半数の議席を持つ、「ねじれ」の状態にあります。この状況で野党会派である「自民・無所属の会」は、県が「2025年度一般会計当初予算案」に計上した「ワシントン駐在」の経費を取り下げない場合には、全ての議案審議に応じない方針を固めて事前に通知しており、中立会派である「公明党」も同調する意向を示していました。
しかしながら、2月定例会が開会するまでに県執行部からの返答はなく、「自民・無所属の会」が、当初予算案を差し戻す「返付」動議を提出し、野党・中立の両会派の賛成多数で可決しました。当初予算案について「返付」動議が出されるのは初めてのことです(注3)。
県議会の正常化を目指して、与野党会派の間で意見交換が行われましたが、頑なに「原案を修正せずに審議すること」を求める玉城デニー知事及び与党である「オール沖縄」会派と「予算案から『ワシントン駐在』経費を取り下げない限り、全ての審議に応じない」とする「沖縄自民・無所属の会」との間で歩み寄ることができず、各々の主張が平行線を辿ることとなり、代表質問において予算案に関する質疑が制限されるという前例のない事態に陥ることとなってしまいました(注4)。
県議会の正常化に向けて
県政与野党会派のどちらも歩み寄りを見せない中、法の罠がさらに事態を長引かせる要因となりました。双方にとって、事態打開を目指す過程で大きなハードルとなっていたのが「同一会期中に一度議決したことを再び議題として取り上げることはできない」という「一事不再議」の原則(注5)です。
県政与野党会派が「まずは25日の本会議冒頭に議長が当初予算案を議題にすることを提案する形で原案審議に入る」「原案から事務所運営費を減額する修正案を提出し、具体的な内容は今後協議する」ということで合意に達しました。
この合意成立を受けて、議会運営委員会が「予算案を25日に議長発議で審議対象とすること」を決定し、「予算議会」とも称される2月定例会で「予算案の審議ができない」という異例の事態が、ようやく正常化に向けて動き出すこととなったのです。
「予算」を人質にとったのは誰なのか?
県議会2月定例会の初日に「返付」動議が可決されたことを受けて、玉城デニー知事は「全体の予算を人質に取るような形で、議論もしないまま動議を出された」と不快感をあらわにしていました。また、『琉球新報』『沖縄タイムス』両紙も翌日の紙面に「返付」動議や「審議拒否」に否定的な識者の談話を掲載し、それぞれの社説において野党・中立会派が「返付」動議を提出・可決したことについて否定的に論じています(注7)。
確かに、「予算案」について「返付」動議を提出することや審議を拒否することが極めて強引で異例な手法であることは否定できず、議会の場で審議することが「本来のあるべき姿」であることは確かでしょう。
しかしながら、この度の県議会が混乱に陥った経緯を振り返ってみると、その混乱の主たる要因は、野党・中立会派が「返付」動議を可決したことにあるのではなく、玉城デニー知事が「ワシントン駐在」を無理やり存続させようとしていることにあることは明らかです。
後で少し紹介しますが、玉城デニー知事と県執行部は「ワシントン駐在」の問題を巡って基本的な事実関係を把握することすらできておらず、まともに答弁することができていません。以前、「ワシントン駐在」は「疑惑のデパート」であると論じましたが、今に至るまでなんの疑惑も晴れぬままで、もはや即刻閉鎖して予算執行を停止すべきと判断するのが当然の状態です。
玉城デニー知事と県執行部の振る舞いを見ていると、昨年の県議会議員選挙で「オール沖縄」会派が大敗し、「ねじれ」となっている県議会の現状を正しく認識することができていないのではないかと思わざるを得ません。
現在の県議会において、(「自民・無所属の会」が事前に通告していたように)県執行部が「ワシントン駐在」経費を含む当初予算案を上程しても、それがそのまま承認されることがあり得ないのは火を見るよりも明らかなことでした。
事前協議を通して妥協点を探ることで県議会の混乱を避けることが十分可能であったにもかかわらず、玉城デニー知事と「オール沖縄」会派が野党会派と事前協議をすることもなく、当初予算案を変更せずに提出したのであり、その強引で稚拙な手法が今回の混乱の発端であったと言えるのです。
また、県議会事務局の「返付」動議に関する照会に対して、総務省は「原案を撤回しての再提出や原案の訂正が考えらえる」との対応策を示していました。それにもかかわらず、玉城デニー知事と県執行部が「ワシントン駐在」の存続にこだわり、頑なに「原案を修正せずに審議すること」を求め続けたことが「予算議会」で「予算案の審議ができない」という異例の事態を長引かせることに繋がったということも否定することはできません。
この度の沖縄県議会における混乱を俯瞰してみると、「全体の予算を人質にとった」のは、「ワシントン駐在」経費を否認しようとする県議会野党・中立会派の側ではなく、「ワシントン駐在」を存続させることにこだわり、その経費を承認させようとする玉城デニー知事と「オール沖縄」会派の側であったと捉える方が、より的確な現状認識であるように思えます。
「ワシントン駐在」の杜撰な運営実態
今回の問題の発端である「ワシントン駐在」問題について、百条委員会などで検証が始まったところであることは冒頭に述べましたが、その過程は責任のなすり付け合いとも言える醜悪なものになっており、見ていてなんとも情けない気持ちにさせられます。
少々長くなってしまいますが、『琉球新報』『沖縄タイムス』など地元紙があまり詳しく報じていないこともあるので、以下にその断片を記しておきたいと思います。
玉城デニー知事は、2月6日の定例記者会見で「トランプ政権がどのような方向性で情報発信するか、という情報収集は、必要最低限度の活動の範疇だと考える」と述べて「ワシントン駐在」の必要性を改めて強調していました。また、12日の県議会初日に表明した「2025年度県政運営方針」においても「基地問題の解決を図るためには、当事者である米国政府に対しても県自らが直接訴えることが重要だ」として「ワシントン駐在」を存続させて、今後も米国内での情報収集・発信に取り組む方針を示しています(注8)。
しかしながら、県議会や「ワシントン駐在」を巡る一連の問題を追及する県議会の百条委員会、それとは別に県が設置した調査検証委員会の審議などにおいて、沖縄県が「ワシントン駐在」の設立及び運営業務を現地のコンサルティング業者に委託し、実質的な「丸投げ」状態であったと言わざるを得ない極めて杜撰な運営の実態が、次々と明らかにされはじめています(注9)。
駐在職員に責任を押し付ける?──県議会と百条委員会での答弁
昨年12月の県議会本会議及び常任委員会などにおいて、2015年の開設当時に「ワシントン駐在」を所管する基地対策統括官を務めていた池田竹州副知事は「株式会社であると認識したのは、10月に県幹部から説明を受けてから」と説明しており、溜政仁知事公室長は、初代駐在職員らによる(手続きの)不備を指摘し、「駐在職員から(本庁に対し)何らかの確認があってしかるべきであった」として駐在職員を責めるかのような答弁を行なっています。
また、県は、会社設立に関する書類に初代所長を務めた平安山英雄氏のサインがあることを明らかにした上で「駐在職員らは(株式会社であると)認識していたと思う」と主張しています。
しかしながら、平安山氏は取材に応じて「法的に高度なレベルの書類が多く、読むには膨大な時間がかかる。『法人』とは分かっていたが『株式会社』との認識はなかった」と否定し、駐在職員に責任を押し付けるかのような県執行部の言い分に対して「事務所を設置した本庁が主体的に情報収集し、業者に直接確認するのが筋だ」と反論しています。
1月31日に開かれた百条委員会には、池田竹州副知事と溜政仁知事公室長ら県幹部が出席しましたが、議論は紛糾し、委員から「ワシントン駐在」設立時の手続きや駐在職員の身分に関する法的根拠などを問われた県幹部らは釈明に追われることになりました。
「ワシントン駐在」で行われるロビー活動について「日本の法律で全てクリアされているのか、イエスかノーかで答えるように」と繰り返し問い質されましたが、彼らはイエスともノートも答えることができず、また、「誰が『ワシントン駐在』に関する入出金を担っていたのか」との質問にさえ答えることができない杜撰な実態が明らかにされています。
2月7日の百条委員会では、初代所長の平安山氏と初代副所長の山里永悟氏を参考人として招致して意見聴取が行われました。
法人設立について、平安山氏が「私はこのことに一切関わっていない」「自身はあくまで『株式会社ではなく特殊法人』の認識であった」と述べ、「法律の専門家が県からの依頼を受けて設立したものと理解している」「ワシントンの弁護士が知恵を絞って、苦肉の策で設立したのではないか」とする一方で、山里氏は「翁長雄志知事(当時)が初訪米した2015年に平安山所長(同)はワシントン事務所の法人登録を翁長知事(同)に報告している」と証言しました。
また、株式会社設立の際に平安山氏とともに発起人となっていた米国の弁護士について、平安山氏は「名前も分からないし、会ったこともない」と証言しており、質疑の過程で、県は2024年度(令和6年度)も当該弁護士と委託契約を結んでいるにもかかわらず、数か月前から連絡が取れない状態に陥っていることが明らかとなりました。
これまで県は県議会の答弁においても「株式会社設立を決裁したのは誰なのか」について明言していませんが、山里氏が「平安山所長(当時)が法人登録書の原本(英語で法人が株式会社であることが明記されている)を県庁に持参し、翁長知事に対面で報告・説明しているので、翁長知事はご存知であったと思う」と証言しており、平安山氏の発言と食い違いがあるものの、株式会社の設立に「ゴーサイン」を出したのは最高責任者である翁長知事本人であった疑いが濃厚になっています。
その他、山里氏は2代目所長が「株券の公有財産登録をやっていない」と漏らしたことや法人登録の書類閲覧を副所長にも許さず、重要書類が「ブラックボックス化」していたことを指摘しました。さらには、駐在職員が地方公務員法に反して必要な営利企業従事許可を取っていなかったことについて、県庁内で「営利業務は一切やっていないので、許可は取らなくていい」という想定問答を見たことがあると発言し、「この認識が誤りで違法行為と気づかされた。県民の信頼を失墜したことをお詫びしたい」と謝罪しています。
県庁内で株式会社設立に関する意思決定の文書が見つかっておらず、県議会において玉城デニー知事をはじめとする県執行部は「ワシントン駐在が株式会社であることを知ったのは設立から9年後の2024年のことである」と答弁しており、株式会社設立は「誰がいつ決めたのか不明で、本庁のあずかり知らぬこと」扱いとなっています。
百条委員会の場でその事実を突きつけられた参考人の山里氏は「私はものすごいプレッシャーの中で、手探りで(法人登録を)やらざるを得なかった。重圧に耐えながらやってきたことを、本庁はこんなにも軽く扱っていたのかと寂しく感じている」と声を落としたと報じられています。
また別の機会に改めて論じてみたいと考えていますが、近年、沖縄県職員の自己都合退職が(他の都道府県と比較して)突出して急増しており(注10)、山里氏の言葉に、その理由の一端を垣間見たような気がしてなりません。
弁護士に相談をしていたのかすら曖昧──調査検証委員会の指摘
2月13日には、県議会の百条委員会とは別に、県が設置した外部有識者で構成する調査検証委員会が開かれましたが、同委員会でも「ワシントン駐在」の問題点が明らかにされています。
これまで県は議会において「米国弁護士などの助言を受けて同社を設立した」「会社設立時、弁護士を介して国務省に相談していた」と答弁してきましたが、実際には委託先のコンサルタント会社を通じた伝聞情報であったことが判明し、委員からは「法律事務所が法的助言を適切に行っていたのかどうかも確認ができない状態である」「伝聞での米国法の解釈でしかない」「弁護士のやり取りがあったのかどうかも含め、原資料の確認ができない」「誰かがこう言っていたという(伝聞)情報で、
このような行政判断はされるべきではない」などといった問題点が指摘されていました。
恐らく、この調査委員会の設置には、県が「自浄作用」をアピールする意図があるものと思われますが、「ワシントン駐在」の杜撰な運営実態は「自浄作用」以前の問題であると言わざるを得ません。
玉城デニー知事のつぶやき
2月19日の夜、玉城デニー知事がX(旧Twitter)で「国会では少数与党で構成する政府の議案を与野党が議論でせめぎあっているなあ。言論の府はこうあってほしいなあ」と投稿し、その後、削除しました(注11)。
翌日、玉城知事は記者の質問に対して「私は提案権を持って提案している。議会で議論し、どう知恵を絞るか与野党で頑張ってほしい。そうあってほしいと、思わず本音でつぶやいた」と説明し、「投稿は削除したが意思は変わらない」「(現在行われている代表質問や一般質問での議論を踏まえて)終わってからもう一回書く」と語ったと報じられています。
県政の最高責任者である玉城デニー知事による、あたかも傍観者であるかのような軽薄で無責任な言動に、ウチナーンチュの1人として憤りを通り越して悲哀を感じてしまったというのが正直なところです。
「ワシントン駐在」は即時閉鎖すべきである
「ワシントン駐在」は即時閉鎖すべきであるということは、もはや論ずるまでもない自明のことであると言って過言ではありません。
しかしながら、玉城デニー知事や県執行部、「オール沖縄」会派の人びとは、これまで概観してきたような「ワシントン駐在」の杜撰な運営実態を突き付けられても、その存続にこだわり続けています。
この期に及んで「ワシントン駐在」を「存続することが望ましい」「存続することができる」と考えることができる彼らの思考回路や心情の背景には、「『平和主義』を掲げてさえいれば何をしても許される」「『命どぅ宝』と唱えてさえいれば、賛同してもらえる」という「平和主義者」たちの傲慢な心根が透けて見えるようであり、私自身は全くもって共感するができず、容認することもできません。自らのイデオロギーを何ら疑うことなく強硬に主張する彼らの姿が「醜悪」であると思えてならないのです。
現在、県議会を舞台に繰り広げられている、たいして面白くもない「ワシントン駐在」を巡るスラップスティック(ドタバタ劇)が早く幕を閉じることを祈らずにはいられません。
前回の記事の自らの言葉を引用して締め括りたいと思います。
「ワシントン駐在」を巡る「疑惑」の全容解明は未だ道半ばであり、現時点で総括することはできませんが、たとえ玉城知事や「オール沖縄」勢力の人々が「ワシントン駐在」の存続を強く望み、その意義と重要性を強調したとしても、現段階で既に明らかとなっている事実から、もはや「ワシントン駐在」を存続することはできない(存続すべきではない)と看做さざるを得ず、速やかに関連する予算執行を停止すべきであると思慮します。
玉城知事や沖縄県庁のスタッフには、「ワシントン駐在」の存続に拘泥するのではなく、行政組織としての沖縄県庁全体の機能回復に努めて、沖縄県民がより良い生活を送ることができるように尽力することを期待せずにはいられません。
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(注5) 「一義不再議」の原則は、同一の議案を何度も取り上げることによって議会運営が非効率になることや審議のたびに異なる意思決定がされることによる混乱を防ぐためとされており、地方自治法などに明文の規定はありませんが、沖縄県議会会議規則は「議会で議決された事件については、同一会期中は再び提出することができない」と定めています。
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藤原昌樹