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【書評】グローバリズムに 抗う農協の意義/小野耕資


久保田治己 著『農協が日本人の“食と命”を守り続ける!』ビジネス社/2024年8月刊

 なんでも市場の競争に任せればうまくいくかのような新自由主義がはびこり、本来社会に不可欠な存在であるはずの、家族や地域などの中間団体が解体されてきている。本書はまさにそうした新自由主義による解体のターゲットになっている協同組合である、農協の存在意義を改めて社会に訴えるものだ。
 農業は自然を相手にし、それと地域の人々の生活の歴史的積み重ねや文化伝統が一体となって営まれるものである。農作物の生産のみならず、祭りや消防団、コウノトリの保護に至るまで、農家が担う役割は幅広い。したがって農業の弱体化は地域社会の弱体化なのである。にもかかわらず、政府は農業を一つの産業と位置付けることで、結果として農業を弱体化させたと著者は指摘する。政府は農業にも資本の論理を適用させ、外国勢力や大企業に農業を明け渡させようとしている。農協は国際穀物メジャーの遺伝子組み換えトウモロコシの導入圧力などに体を張って抵抗してきた。その恨みが全農株式会社化の圧力につながった。規制改革会議農業ワーキンググループでは、大した説明もなく全農の株式会社化が盛り込まれた。カナダやオーストラリアなどで失敗した農協の株式会社化が一周遅れで図られた形だ。郵政や水道など日本の新自由主義化にありがちな、世界中で失敗している市場化が、なぜか何の検討もなく日本で行われることが頻発しているが、農協もまたその一つで、グローバル外資は株式会社化を進め買収し利益をさらうためにあらゆる手段で各国政府に圧力をかけている。著者は、我が国においてそれを可能にしたのがTPPであり、またその圧力機関の重要な一つが日米合同委員会であると指摘している。つまりグローバル外資がアメリカ政府を動かし、TPPや日米合同委員会を通じて日本政府に徹底した市場化、つまり外資の私物化をさせるよう圧力をかけているのだ。株式会社は利益を追求するためにあり、その支配者は株主だ。したがって特にその株主がグローバル外資に移ってしまった場合、「今だけ、金だけ、自分だけ」の方策がとられやすくなる。しかし農協は農家や漁業者、森林所有者などの組合員によって構成される共同体であり、組合員と国民経済の発展のために運営される。本書では、だからこそ農協を守り抜くことが必要なのだと強調されている。
 政府自民党は、元来地方に地盤を持ちながら、特に小泉政権以降こうした地方基盤に冷淡であった。地方からそうした自民党に対する反旗は起こりつつあり、平成二十七年の佐賀県知事選挙では、自公の推薦する候補を、農協等が支援する無所属候補が打ち破ったということも起こっている。本書ではこうした「佐賀の乱」に代表される農協の結集力と地域社会への密着性が存分に語られている。日本の国家主権を守る反グローバリズム保守的組織としての農協の存在意義が存分に示された一冊。